「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)

カンダタの顛末は当然の結末

「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)
(「蜘蛛の糸・杜子春」)新潮文庫

「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)
(「芥川龍之介全集2」)ちくま文庫

「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)
(「日本児童文学名作集(下)」)
 岩波文庫

地獄を覗き見た釈迦は、
罪人の中にカンダタを見つける。
カンダタは悪党であったが、
過去に一度だけ善行らしきことを
成したことがあった。
小さな蜘蛛を
踏み殺しかけて止め、
命を助けたことである。
それを思い出した釈迦は…。

日本人なら誰でも知っている
「蜘蛛の糸」。
実は、子どもなんかに
見向きもしないような芥川龍之介が、
初めて子ども向けに書いた
作品なのです。

私も幼い頃は思ったものです。
人のことを考えるのが大切なのだと。
小さなことでも
お釈迦様は見ているのだと。
小さな虫にも命があり、
大切にすべきものなのだと。

これまで数え切れないほど
読み返してきました。
やはり年を取るにつれ、
感じ方が異なってきます。
最近では、やはりカンダタは
助からない運命だったのだと
思うようになりました。

大人一人を
すくい上げるためのツールが
か細く弱い蜘蛛の糸です。
「もっと太いの出せよ」と
お釈迦様に文句を言ってはいけません。
カンダタは
人を何人も殺めた極悪人です。
その罪が、蜘蛛一匹救ったことで
簡単に許されるはずはないのです。
そこに過酷なリスクがともなうのは
当然なのです。

そして、糸をつたってのぼっていく
カンダタを見て、
他の罪人たちも同じ行動をするのも
また当然のことです。
苦境から脱出しようとする
他者の姿を見てしまえば、
当然それに習うのが人間の性です。

さらに、それを見てカンダタが
「こら、罪人ども。
 この蜘蛛の糸は己のものだぞ」

と叫んだのも、これもまた当然です。
命綱が切れそうなとき、
自分の身を守るためにロープを切って
下の人間を犠牲にしたとしても、
それは致し方ないのです。

そうです。このカンダタの顛末は、
「人間の浅ましい根性が
露呈した」のでも
「悪人はやっぱり
悪人だった」のでもなく、
当然の結末だったと思うのです。
カンダタでなく、他の誰であっても
このシチュエーションでは
同じ結果にたどりつくはずです。

であれば得られる結論は、
「最初から悪いことをしない」と
いうことになるのでしょうか。
お釈迦様は、いや、芥川は、
なんともはや回りくどい方法で
当たり前の結論を導き出したものです。

などとつべこべ言わずに、
人口に膾炙したこの作品を、
純粋な心で味わうのが
正しい読書の在り方です。

※「日本児童文学名作集(下)」に
 収録されてあるものは、「赤い鳥」に
 掲載される際に、
 鈴木三重吉の手が入っているため、
 文章がかなり異なります。

(2020.6.16)

Dean MoriartyによるPixabayからの画

【青空文庫】
「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)

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